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論文

NICEモデルを用いた我が国のCO2排出対策オプションの相対比較

八木田浩史、近藤康彦、小林光雄、稲葉 敦
資源環境技術総合研究所
〒305-8569茨城県つくば市小野川16-3

A comparative evaluation of CO2 mitigation options for Japan using the NICE model

Hiroshi YAGITA, Yasuhiko KONDO, Mitsuo KOBAYASHI, Atsushi INABA
National Institute for Resources and Environment

SYNOPSIS

Global warming has been recognized as a problem requiring urgent attention. COP3, held in Kyoto in December 1997, decided that within the specified time frame of 2008 to 2102, developed countries must undertake legally binding control and reduce greenhouse gas emissions with numerical targets. For Japan, the CO2 emission reduction target is6% from the 1990 level. To clear the target, several countermeasures have been thought and their effectiveness must be measured quantitatively. We compared the effect of the CO2 mitigation options relatively by using NIRE CO2 Emission model (NICE). NICE is a domestic energy model, which can evaluate the various scenarios about energy demand and supply. We estimated future CO2 emission of Japan in a short term until the year 2010 and in a long term until the year 2050. As for 2050-year long term, the industrial division countermeasure or the power generation division countermeasure was effective and the considerable amount of CO2 emission reduction was possible. On the other hand in short term until the year 2010, it was impossible to achieve the CO2 emission reduction target committed by COP3, even though countermeasures in the industry including the power generation were applied.

Key Words:Energy consumption, CO2 emission, Analysis



1.緒言

 近年、化石燃料消費に伴って排出されるCO2による地球温暖化の問題がクローズアップされている。1997年12月の国連気候変動枠組み条約第三回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書では、CO2を含む温室効果ガスの排出量について、日本は2010年をめどに1990年基準で6%削減することが求められている。この数値目標をクリアするため、国内のCO2排出量と削減ポテンシャルを評価する必要が生じている1)〜4)

 一般にCO2排出量変化を引き起こす要因の分析に関する概念を説明するものとして、次の式が知られている5)。(式1)

CO2排出量 =(CO2排出量/Energy消費量)×(Energy消費量/製品生産量)

×(製品生産量GDP)×(GDP/人口)×人口  (1)

CO2排出対策オプションの効果を長期にわたって論じる際は、CO2原単位(CO2排出量/Energy消費量)、エネルギー原単位(Energy消費量/製品生産量)といった生産技術要因のみならず、製品需要(製品生産量/GDP)、所得(GDP/人口)、人口といった社会要因についても考慮して検討を行う必要がある。

 藤目は、過去のエネルギー弾性値を考慮すると2010年のエネルギー消費は1990年比で20%程度増える可能性を示唆している1)。茅らは、エネルギー多消費型4業種(紙・パルプ、化学、窯業・土石、鉄鋼)のエネルギー消費原単位と生産量予測から産業部門のエネルギー需要を見積もり、民生・運輸部門のエネルギー需要見積もりと合わせて2010年までの日本のエネルギー消費を算出している2)。森らは、生産関数を組み込んだ産業連関エネルギー経済モデル(産業部門を9分割、上記4業種は独立分類)により、2030年までの産業部門のエネルギー消費を導出している3)。室田らは、高齢化・空洞ケース、技術革新ケースといった社会構造変化、産業構造変化が生じる場合について2030年までの長期にわたりエネルギー需給をシミュレーションしている4)。これらは、いずれも精緻な分析であるが、各要因の寄与を比較するという観点で必ずしも分かりやすいとは言えない。

 著者らは、エネルギー需要変化要因および省エネルギー技術の役割を明確に考察することを目的として、シナリオ分析型の簡易エネルギーモデルであるNIRE CO2 Emission (NICE)モデルを構築した。NICEモデルは将来のエネルギー需要と電力供給技術に関する調査6)〜7)で得られた知見に基づいて、2050年までの日本のエネルギー需給および二酸化炭素排出を試算することが出来る8)。本論文では、NICEモデルを用いた試算により、我が国のCO2排出対策オプションによるCO2排出削減ポテンシャルに関して、2010年までの短期、2050年までの長期について相対的に比較した結果を報告する。


NICE Model
2.NICEモデルの概要

 図1はNICEモデルの構造を示している。NICEモデルは、産業部門、民生部門業務用、民生部門家庭用、運輸部門の各需要部門の活動量(生産量)やエネルギー利用技術(生産技術)などのエネルギー需要側のシナリオと、技術開発を見込んだエネルギー供給側のシナリオをバランスさせ将来のエネルギー需給および二酸化炭素排出量を決定している。


Fig.1 Structure of NICE model



 NICEモデルの特徴は、エネルギー需要の見積もり手法が積み上げ方式であるためモデル設計の透明性が高いことで、マウスをクリックしていくだけで日本のエネルギー需給について考察することが出来る。シナリオ選択画面では、エネルギー需給に係わる各パラメーターに関して予め設定された高位、中位、低位から選択することに加え、いくつかのパラメーターは任意の値を入力することが出来る(図2)。


Fig.2 Sample of NICE menu screen
2.1 産業部門
 産業部門に関しては、鉄鋼、化学、窯業・土石、紙・パルプのエネルギー多消費型4業種とその他の製造業およびその他産業の6つに分けて取り扱っている6)〜8)

 鉄鋼産業のエネルギー消費は、鉄鋼生産1tあたりのエネルギー消費と鉄鋼生産量の積で算出され、選択可能パラメーターとして2050年までの鉄鋼産業の省エネルギー率が設定されている。鉄鋼生産量は住宅着工数、自動車生産、鉄鋼輸出とその他の部門における消費から算出される。住宅着工数はシナリオとして与え、自動車の生産台数、鉄鋼輸出量が選択可能なパラメーターとして設定されている。

 窯業・土石産業のエネルギー消費は、セメント生産量あたりのエネルギー消費とセメント生産量の積として算出され、セメント生産量は住宅着工面積に比例すると仮定されている。

 紙・パルプ産業のエネルギー消費は、紙類生産あたりのエネルギー消費と紙類生産量の積で算出される。エネルギー原単位については古紙利用率が1993年の51.1%から2050年の65%まで直線的に向上すると仮定して算出しており、紙類生産量の年成長率が選択可能なパラメーターとして設定されている。

 化学工業については、特定の製品を想定してエネルギー消費を見積もることが困難であるため、選択可能なパラメーターとして化学工業全体の成長率を設定することによりマクロにエネルギー消費を検討するようにしている。

2.2 民生部門

 民生部門業務用のエネルギー消費は、1人当たりGDPと相関して増加すると仮定(デフォルトの1人当たりGDPの伸び率は年2%)し、業務用ビルの省エネ率を選択可能なパラメーターとして設定している。

 民生部門家庭用のエネルギー消費は、暖房、冷房、給湯、照明・動力に分けて過去の消費量解析結果に基づいてエネルギー需要を見積もると共に、断熱材を用いた省エネルギー住宅の普及、機器のエネルギー効率の向上を考慮している。暖房の灯油使用量、給湯の電力・灯油使用量、暖房のLPG使用量を選択可変パラメーターとして設定している。

2.3 運輸部門

 運輸部門に関しては、人口とGDPをパラメーターとして旅客輸送量(人キロ)および貨物輸送量(tキロ)といった輸送需要を求め、これに輸送機関の分担率と燃費を掛け合わせてエネルギー需要を求めている。自動車の燃費向上率と、燃料代替車(電気自動車、天然ガス車、LPG車)の導入を選択可能パラメーターとして設定している。

 NICEモデルの詳細については既報8)を参照いただきたい。本研究で用いたNICEモデルは既報8)のモデルを拡張して鉄鋼部門の省エネ技術の評価を可能としたもので、各シナリオ解析に用いたデータセットはデフォルトのデータセットを元に、著者ら独自の判断に基づいた変更を行っている。

3.自然体ケース

 図3は、CO2削減に関して何ら特別の対策を施さない自然体ケースにおける将来のエネルギー需要を示している。前提条件として紙類生産量の増加は年率2%、化学工業の成長は年率1%、鉄鋼輸出量は一定とした(図2)。自然体ケースは各種CO2削減対策の効果を評価する基準ケースとするため、産業部門での省エネは特に行われず、長期的に工業生産量当たりのエネルギー消費は変化しないとした。また民生部門については、業務用ビルの省エネ率改善は行われず、家庭暖房用灯油使用量、家庭給湯の電力・灯油使用量は一定とした。運輸部門については自動車の燃費効率の改善は行われず、燃料代替車は導入されないとした。


Fig.3 Energy demand (Base case)

 自然体ケースにおける日本の2010年時点のエネルギー需要は400MTOE(1990年比23%増)で、2050年時点のエネルギー需要は490MTOEに達する。エネルギー需要の構成比を見ると、全体に占める産業部門の比率は次第に低下し、民生、運輸部門のエネルギー需要の比率が高くなる。図4は、自然体ケースの電源構成を示している。2050年時点に向けて原子力発電は7000万kW、風力発電は15万kW、地熱発電は500万kWまで導入量が増加すると想定し、これにゴミ発電(2030年に可燃ゴミの50%を発電利用、発電効率30%)と石油火力(2025年以後、離島部などに200MWだけ存続)を加えた発電量の不足分については石炭火力、LNG火力で折半して供給されるとしている8)


Fig.4 Electricity supply (Base case)

 図5は自然体ケースのCO2排出量を示している。2010年時点のCO2排出量は328Mt-Cで、これは1990年比で20%増に相当しCOP3のCO2排出削減目標を達成することの困難さが再確認出来る。また2050年時点のCO2排出量は394Mt-C(1990年比44%増)で、COP3以後もCO2排出削減を行うには大幅な技術開発、省エネ努力が必要であると推察される。


Fig. 5 CO2 emission (Base case)

 図6は、NICEモデルを用いた将来のエネルギー消費の試算と、総合エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し(MITI)及びエネルギー経済研究所長期見通し(IEE)の比較である。2010年時点におけるNICE自然体ケースのエネルギー消費量は、MITI基準ケースに比べて7%程度、IEE現状維持ケースに比べて3%程度小さい。この差は、NICEモデルにおける産業部門、運輸部門のエネルギー消費の伸びが小さいことに起因しているが、2010年までの短期見積もりにおける誤差としては十分に小さいと考えられる。


Fig.6 Comparison of long term energy consumption outlook

 また2030年までの長期見積もり例として室田ら4)の試算結果(Murota model)を比較のために示したが、NICE自然体ケースの2030年時点のエネルギー消費量と比べて6%程度小さく、2010年のMITI基準ケースよりも小さい。これらは、試算の前提条件によりエネルギー消費の長期予測結果が大きく変わってくることを示している。

4.省エネ推進ケース

 図7は省エネ推進ケースにおけるエネルギー需要を、図8はCO2排出量を示している。省エネ推進ケースでは、鉄鋼業が2050年までに10%の省エネを達成し、紙類生産量の増加は年率1%、化学工業生産は一定、自動車の燃費向上(乗用車は年率1%で、トラックは0.5%で向上)がはかられ、業務用ビルの省エネ(2050年に24%減)が行われると仮定し、主として産業部門の技術開発に起因する省エネポテンシャルを評価した。省エネ推進ケースの2010年時点におけるエネルギー消費は382MTOEで自然体ケースの5%減であり、CO2排出量は307Mt-C(1990年比12%増)で自然体ケースの7%減である。また2050年時点のエネルギー消費量は397MTOE(1990年比21%増)で、CO2排出量は290Mt-C(1990年比6%増)である。このように技術開発側の省エネを実施するのみでは短期的、長期的ともにCO2削減を達成することが困難である。


Fig.7 Energy demand (Energy saving)


Fig.8 CO2 emission (Energy saving)
5.発電技術対策ケース

 図9、図10は、原子力発電(2050年に自然体ケースの2倍に当たる1億4000万kW)、ゴミ発電(2030年にゴミの75%を発電利用)、地熱発電(2050年に自然体ケースの2倍に当たる1000万kW)、風力発電(2050年に自然体ケースの5倍に当たる75万kW)の導入を推進した場合の電源構成とCO2排出量を示している。この想定条件下においては、電源構成に占める原子力発電の比率は2010年時点で44%、2050年時点で65%である。また2010年のCO2排出量は1990年比で14%増の314Mt-C、2050年時点のCO2排出量は328Mt-C(1990年比19%増)である。これよりエネルギー供給側(発電部門)におけるCO2排出削減対策は、単独では短期的、長期的両視点で将来のCO2削減対策として不十分であることが分かる。


Fig.9 Electricity supply (Power plant options)


Fig.10 CO2 emission (Power plant options)
6.省エネ推進+発電技術対策ケース

 図11、図12は、省エネ推進と発電技術対策を同時に実施した場合の源構成とCO2排出量を示している。CO2排出量は2000年以後減少し、2010年時点のCO2排出量は293Mt-C(1990年比5%増)で、2050年時点のCO2排出量は229Mt-C(1990年比17%減)である。


Fig.11 Electricity supply (Energy saving and Power plant options)


Fig. 12 CO2 emission (Energy saving and Power plant options)

 原子力発電の導入を含む発電技術に関する対策オプションは、長期的には有力なCO2削減対策オプションであるが、実行に際してリードタイムが必要なため、短期的には十分な効果を期待することが出来ない。特に原子力発電はCO2排出削減対策として極めて魅力的であるが、今回の試算ケースにおいては2010年時点の電源構成に占める原子力比率が45%を超えているが、それにも関わらずCOP3の削減目標を達成するまでに至っていない。これより短期の削減目標を達成するためには産業部門の省エネ、発電部門のCO2排出削減のみならず、エネルギー需要側を含めた一層の省エネ推進が必要であることが明らかである。式1におけるエネルギー消費およびCO2排出に関わる社会要因について対応策を検討することが、必要であると考えられる。

7.鉄鋼対策技術ケース

 先の省エネケースでは、2050年の鉄鋼生産原単位が1990年比で10%向上すると設定することにより鉄鋼部門の省エネルギーの効果をマクロに見積もったが、鉄鋼部門における各種の省エネルギー技術の効果を具体的に評価するため、経団連自主行動計画書に記載されたCO2排出削減対策について検討を試みた(図13)。各技術の開発および普及段階を、研究開発中(効果割合0%)〜対策済み(効果割合100%)の5段階に区分し、年次展開に従って技術導入が図られると仮定した。



Fig. 13 Iron/Steel energy saving and countermeasure menu screen

 図14は、鉄鋼部門以外の条件は自然体ケース同様に設定して、コークス・高炉・転炉関連の省エネ・CO2対策を施した場合、および鉄鋼関係の対策を全て施した場合における、鉄鋼産業部門からのCO2排出量の試算を示している。鉄鋼部門における省エネルギー対策を全て行った場合、2010年時点の鉄鋼部門CO2排出量は、1990年比15%減の3700万t-Cで、2050年のCO2排出削減2500万t-C(1990年比42%減)である。これより経団連自主行動計画書に記載された鉄鋼部門の省エネ技術のCO2削減ポテンシャルが大きいことが分かる。またコークス・高炉・転炉関連の対策のみを行った場合は、2010年時点で9%(1990年比)、2050年時点で23%(1990年比) のCO2排出削減が達成できる。なお自然体ケースにおける2010年時点の鉄鋼部門CO2排出量は1990年比2.5%増の4480万t-Cであり、2050年の鉄鋼部門CO2排出量は1990年とほぼ同レベルであった。


Fig.14 CO2 emission from Iron/Steel industry
結言

 NICEモデルを用いた我が国のCO2排出対策オプションによるCO2排出削減ポテンシャルに関する検討により、2050年という長期においては産業部門、発電部門の対策を実施することにより、相当量のCO2排出削減の可能性があることが示唆された。一方2010年という短期においては、産業部門、発電部門双方の対策を施してもCO2は削減されるに至らないことが分かった。

 CO2排出量の削減を達成するためにはエネルギー需要部門、エネルギー供給部門双方の対策が必要である。今回の分析で産業部門および発電部門における対策のみではCOP3という短期目標への対応策として不十分であることが再確認された。今後の課題は、民生部門、運輸部門について省エネルギーオプションのCO2排出削減ポテンシャルを定量的に評価することである。また産業部門に関して、鉄鋼以外の業種の対策技術についても検討することが必要である。

 なおNICEモデルにおいては、容易に各種パラメーターを変更してエネルギー需要、CO2排出の試算結果を比較検討する事が出来る。今回のシナリオ分析に要したデータ処理時間はパラメーター設定の変更の時間を含めて10分未満である。複数オプションを素早く比較するためにはシナリオ分析型の簡易エネルギーモデルの使用が有効である。

参考文献
1) 藤目和哉、京都議定書と2010年エネルギー需給予測、第15回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集, p31 (1999)
2) 岡田啓, 中村剛, 茅陽一, 日本のCO2排出削減可能性の検討, エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集, p35 (1999)
3) 平野雅昭, 森俊介, 産業連関エネルギー経済モデルによる省資源・省廃棄物の環境対策技術評価, 第14回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集, p361 (1998)
4) 伊藤浩吉, 林圭昭, 室田泰弘, 我が国の長期エネルギー需給シミュレーション, 第14回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集, p483 (1998)
5) 茅 陽一, 「地球環境問題と経済発展」、計測と制御, Vol.29(7), 595 (1990)
6) 資源環境技術総合研究所:「二酸化炭素の排出を考慮した我が国のエネルギー将来展望」調査研究報告書 (1996)
7) 資源環境技術総合研究所:「二酸化炭素の排出を考慮した我が国のエネルギー将来展望II」調査研究報告書 (1997)
8) 小林光雄, 稲葉敦, 近藤康彦, 八木田浩史, 松本成司, 山崎正和, 近藤裕昭, 大矢仁史, 大井明彦, 山口勉, 匂坂正幸, 水野光一, 城戸伸夫, 我が国のCO2排出量算出ソフトウェアの開発, 資源と環境, Vol.6(6), 43 (1997)