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NIREニュ−ス1996年3月

岩盤不連続面の挙動メカニズムの研究と
三次元計測技術の開発

地殻工学部 岩盤工学研究室 小杉昌幸

1.はじめに
 露天採掘や地下空洞の大型化に伴って岩盤壁面の計画は大規模になる傾向にあり,これら岩盤壁面の崩落や破壊の多くは岩盤内にある既存のジョイントや亀裂などの不連続面に密接に関連している。このような岩盤挙動を的確に予測して安定施工を行うためには,岩盤を不連続体として扱う評価や解析が有効な手段として注目されている。

 また,岩盤挙動の大部分は破壊面や不連続面の滑りやダイレーションに依存しており,岩盤内の応力変化や透水変化に伴う変形は既存の亀裂,割れ目,ジョイントなど不連続面に敏感に現れる。このため,岩盤の崩落や破壊に至るような変形を速やかに検知するには,不連続面の監視が効果的な手段になる。

 ここに報告する官民連帯共同研究テーマでは,上記の認識に基づき,大規模岩盤壁面の崩落や破壊の防止に資することを目標として,岩盤内不連続面の挙動メカニズムの解明,不連続面の微細な変形を三次元計測する手法の開発,さらに,大規模な不連続性岩盤の挙動の予測解析に関する研究を実施している。
2.ジョイント挙動メカニズムと特性評価
 既存のジョイントなど不連続面の挙動メカニズムは,ジョイント面の破壊と滑り抵抗によって構成されており,前者はジョイント面の強度,後者はジョイント面の粗さと残留抵抗によって特性化される。ここで,ジョイント面の租さは凹凸状態を表す幾何パラメータであり,残留抵抗はジョイント面の凹凸幾何状態と摩擦抵抗を組み合わせた物質特性と考えられる。

 以上の特性は,以下の式で評価されている。
 1)ジョイント面の圧縮強度(Miller)
    :JCS0=10(0.00088rν+1.01) ……………(1)
 2)残留摩擦角(Richard)
    :φr=(φb-20°)+20(r/R)……………(2)
 3)ジョイント面の粗さ係数(Barton)
    :JRC0=(α-φr)/{log(JCS0/σno)}……(3)

ここで,φbは岩石切断面の傾斜試験の角度,Rは岩石切断面のシュミットハンマー跳ね返り数の平均,rはジョイント面のシュミットハンマー跳ね返り数の平均である。また,せん断実験における最大せん断応力τmとジョイント面に作用する垂直応力σnoからα=arctan(τm/σno)が求まる。

 現場実験サイトから回収したジョイントを挟むコア試料を用い,上記の実験によってジョイント特性を評価した。せん断実験(push test)結果の一例として,せん断応力ーせん断変位曲線を図1に示す。図中に記載したクラスは現場における開口幅を指標としたジョイント分類を表し,同一ジョイント試料に対する垂直荷重が0〜20kg範囲の繰り返し実験挙動を示している。この曲線では,非線形挙動と相似再現性が特徴である。このような実験結果と(1)〜(3)式から各試料のジョイント特性が求まる。

表1神岡ジョイントコアのジョイント特性

test num Lo(m) φr(°) JCS01(MPa) JRC01
Class-0 8 0.055〜0.110 28.6 64.2 11.5
Class-1 20 0.053〜0.092 26.6 47.8 9.5
Class-2 15 0.041〜0.122 27.0 51.0 9.4
Class-3 1 0.066 24.1 37.8 3.3
JCS01and JRC01are calculated for a joint of L01=0.100m.
 ジョイント特性評価の一例として,神岡ジョイントコアに村する結果を表1に示す。実験には長さ70〜300mmの試料を用いたが,特性における寸法効果を除くため,基準長さL01=100mmとして補正した値を示す。また,クラス0〜3は,閉塞(密着),微小(開口 0.5mm以下),明瞭(開口1.9〜0.6mm),開口(開口2mm以上)の分類ジョイントを表す。一般には,ジョイントの走向や傾斜における傾向で分類する方法も考えられている。
3.ジョイントの挙動モデル
 ジョイント特性評価は,ジョイント挙動に関する物理的な性質の定量化と挙動のモデル化を主な目的としている。前者では挙動の違いが特性値の差として表れ,後者では予測解析に組み込むために挙動を数式化している。Bartonらが導いたジョイント挙動モデルのコンセプトに従うと,実験におけるせん断挙動は図2に示すようにモデル化される。この挙動モデルは,実験における最大せん断応力,残留強度に収束する非線形過程,さらに,挙動の相似再現性をよく表している。


 同じコンセプトに従い,現場のジョイントについて求めた挙動モデルを図3に示す。ここでは,現場の土被り圧に相当する4.6MPaをジョイント面に垂直に作用する圧力とし,クラス分類から想定されるジョイント長さを現場の値として用いた。
 以上のプロセスによるジョイント特性評価,ジョイントのクラス分類,現場サイトの応力などから,現場に存在するジョイントの非線形挙動を予測することができる。一般に,実験室で評価した特性をそのまま現場特性として用いるのは困難であり,現場スケールに対する寸法効果と被覆岩盤による応力状態に対して補正した特性を評価する必要がある。


4.ジョイントの三次元計測の必要性
 現場でジョイントの変形を的確に把握するには,せん断滑り変位と開口変位を評価する必要がある。一般に,計測のためのボーリング孔は,トンネル壁面や地表などから掘削されるため,その方向に制約がある場合が多い。
 また,ジョイントは岩盤内においてランダムな方向に展開しており,ボーリング孔を掘削して初めてその方向を標定できる場合が多い。このようなボーリング孔を用いて岩盤内のジョイント挙動メカニズムに関連する変形現象を検出するには,ジョイント面内の変位ベクトル(最大せん断方向の変位)と開口変位を評価できる三次元的な計測が必要になる。

 つまり,岩盤内不連続面の挙動メカニズム解明や特性評価の探求は,実際の不連続面の挙動現象の理論化に密接に関連しており,この探求に基づく岩盤挙動の予測解析は,現象把握によって初めて検証されることになる。このように,新たなメカニズム探求には現象把握がブレイクスルーであり,このための計測技術の開発が不可欠である。
5.ジョイント変位計の開発
 ボアホール内でジョイント挙動を三次元的に計測する目的で開発したジョイント変位計の断面構造を図4に,また,計測システムの写真を図5にそれぞれ示す。この変位計は,ボアホール内での設置時に被計測部とセンサ部が分離してそれぞれが庄着固定される。
 ジョイント変位計を的確な位置に設置するため,ボアホールテレビと接続して孔内を観察しながらボアホール内に挿入する構造を有している。ジョイントを挟む両岩盤の相対変化を三方向計測し,この値を座標変換してジョイントのせん断変位ベクトルと開口変位を評価する。

 官民連帯共同研究では,工業技術院特許に基づく計測装置の開発を目指しており,表2に示すように共同研究企業における製品化実績を重ねている。表では,同研究における関連装置「多軸地中変位計」および「三次元変位測定装置」の製品化も含む。

表2 官民連帯共同研究における特許実施と製品化
番号 企業化・製品化の名称 内 容 実 績
1 き裂変位計
(ジョイント変位計)
変位計と計測システムの製品化 実施契約2社(メテック、テラ)
(1)室内実験(資環研)
(2)岩盤内実験場(大林組)
(3)岩盤壁面施工(三井建設)
(4)廃棄物処分実験場(間組)
(5)地下発電所(間組)
(H7計画中):地下浄化場、地下発電所、廃棄物処分実験場,高速道山岳トンネル
H5〜:10〜20台/年
(但し、共同研究機関は共研機関に限る。)
2 多角地中変位計 変位計と計測システムの製品化 実施契約1社(テラ)
(1)室内実験(資環研)
(2)地下浄化場(大林・資環研)
(H7計画中):高速道山岳トンネル
3 三次元変位測定装置 変位計と計測システムの製品化 実施契約1社(テラ)
(1)室内実験(資環研)
(2)地下浄化場(大林組)
(平成7年7月 工業技術院技術振興課提出資料より抜粋)
6.ジョイント変位の現場計測例
 坑道掘削に伴うジョイント挙動の計測例を図6に示す。現場実験では,幅5m,高さ4mの馬蹄型のトンネルを1mずつ発破掘進しており,図では坑道項部から2.8m上の岩盤内にあるジョイントの経時変化を示す。ここでは,計測値をジョイントの面内−法線方向の直交座標(1-m-n座標系)に変換した変位を示しており,面内の最大変位がジョイントのせん断ベクトルに相当する。

 

 ジョイント変位のせん断ベクトルと図3に示した現場の挙動モデルのせん断剛性からせん断応力を導いた結果を図7に示す。このジョイントでは最大0.74mmのせん断変位を記録し,最大0.7MPaのせん断応力の変化を生じたものと准察される。トンネル切羽の接近に伴う岩盤内の応力変化は,この手順によってジョイント挙動の現場計測結果から予測できる。
7.岩盤挙動の予測解析
 現場で標定したジョイント分布と現場ジョイントの挙動モデルを入力してトンネル掘削に伴う岩盤挙動を予測解析した結果の一例を図8に示す。ここでは,個別要素法(Distinct Element Method)のプログラムを用い,図3に示す変形則の不連続境界と弾性変形の連続体を組み合わせたマスの応力−変位マトリックス計算を行い,収束解として不連続面の変形を求めている。図では,せん断変位の大きさを不連続境界の線の太さで表している。




表3 ジョイント挙動の解析結果と現場計測結果の比較
Joint Behavior
Joint Shear (mm) Joint Number
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5
in-situ measurement +0.48 -0.04 -0.15 --- +0.32
FEM for weak planes +0.36 -0.27 +0.10 -0.14 +0.O7
DEM for discontinuity +0.24 -0.51 -0.O7 -0.69 +0.20
 ジョイントのせん断変位について,予測解析と現場計測の結果を比較して表3に示す。表中では,連続体の解析法(Finite Element Method)に弱面層を仮定した場合の模擬解析結果も併せて示している。岩盤挙動の予測解析はこのような現象把握との比較によって検証されるため,特性評価から,挙動モデル化,計測技術開発,予測解析に至る一連のプロセスの検討を継続している。
8.むすび
 ここでは,官民連帯共同研究の途中経過として,岩盤内にあるジョイントなど不連続面の特性評価から現場挙動をモデル化する手順,ジョイント挙動の計測技術の開発と現場計測,さらに,岩盤挙動の予測解析について紹介した。
 このような不連続面挙動評価では,特性評価に要する実験の多さ,寸法効果の補正式の妥当性,着目すべきジョイントの選定など,に関する解決すべき研究課題も多く抱えている。しかし,岩盤の崩落や破壊などで問題となるような微細な変形を的確に計測する方法は,岩盤挙動の監視や予測を直接的に実施する手段として,今後必要性が増すものと期待される。

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