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NIREニュ−ス1999年8月

ソフトメタラジーのすすめ

―環境調和型金属系素材生産技術の開発を目指して―

素材資源部 レアメタル系素材研究室 小林幹男

1.現状の金属素材生産技術の問題点
 人類と金属との出会いは太古の昔にさかのぼる。以来,金,銅,鉄などに代表される金属は人間社会の維持・発展に欠かせない役割を担ってきた。近代に入り,人類の発展にとって大きな転換期となった産業革命を支えた素材はいうまでもなく鉄であった。それ以降,鉄,銅,鉛,亜鉛,アルミニウムなどのいわゆるベースメタル,また,ニッケル,コバルト,レアアースなどのレアメタルなど,社会や産業の発展にとって極めて重要な役割を果たしつつ,現在に至っている。
 しかしながら,社会や産業の規模が大きくなるにつれ,今後,社会の発展を持続的なものとするためには,いくつかの重要な問題が顕在化しつつある。一つは,天然資源枯渇の問題である。金属はいうまでもなく,錬金術のように新たに作り出せるものではない。天然資源に頼っている限り,その資源は枯渇していく。表1に示されているのはそれぞれの金属を今後何年間採ることができるかを示す数値であり1),現状のままではどの金属も,21世紀中頃には危機を迎えるという予想ができる。いま一つの問題は,金属生産・加工工程から非有用物や有害物が排出され,それらの処理はもはや自然の復元力に依拠できなくなりつつあるという問題である。排出の際の濃度が低くても有害金属は蓄積の危険性が予想されるし,スラッジ等の廃棄のための堆積場用地は,わが国の場合もう限界に近いといわれている。今一つの課題は,エネルギー消費の問題である。資源から目的とする金属を抽出する,あるいは,分離・精製する,さらには,採取する過程で決して少なくないエネルギーが消費されつつある。
 このような課題は,基本的には世界中どの国にも当てはまる課題であるが,自国に有用な金属系天然資源が少なく,土地の利用率がすでに高く,さらに,エネルギー多消費国であるわが国にとっては早急に改善していかなければならない課題であると考えなければならない。
表1 主だった非鉄金属の耐用年数
金  属 耐用年数(年)
アルミニウム 202
30
亜鉛 26
24
20
19

 

2.ソフトメタラジーの必要性と可能性
 これらの課題を解決し,持続的発展が可能な社会・産業システムを構築していくためには,現在,日本のような産業面で非常に発展した国では極めて多種多様な金属が,多種多様な使われ方をしていることを念頭におくことが重要である。すなわち,課題を解決していくにあたっては,まず,包括的なコンセプトが必要であり,そのもとに総合的に検討をしていかなければならないと考える。われわれは,その包括的なコンセプトとして,“ソフトメタラジー(環境調和型金属系素材生産技術)”なるコンセプトを提案している。ソフトメタラジーは,金属系素材生産の分野で,(1)省エネルギー・省資源化,(2)コンパクトでフレキシブルな工程(ソフトプロセス)の構築,(3)廃棄物及び排出物の最小化,(4)リサイクル・循環利用の最大化,(5)代替化を含む環境に優しい・リサイクルし易い素材(ソフトマテリアル)製造,(6)個々の金属の資源・素材・環境面からの現状調査・将来予測,の大きく分けて6つのカテゴリーからなると考えている(図1)。

図1 ソフトメタラジー

このソフトメタラジーを推進することによってこそ,金属の生産システムを革新し,上述の3つの課題を解決していくことができると考えられる。もちろん,ソフトメタラジーの推進は,総合的なものとならざるを得ず,したがって,産業界や大学も含めて,金属系素材生産に関わる多くの研究者・技術者がそれぞれのポテンシャルを活かしながら協力し合い,全体として目標を達成していくという姿勢が必須である。また,当所素材資源部レアメタル系素材研究室のソフトメタラジーに対する取り組みについてこれから述べるが,そのような研究の達成についても,まず,当所における多くの異分野の研究者の協力をも得ながら行っていかなければならないと考えている。
3.レアメタル系素材研究室の研究トピックス
 われわれの研究室においては,ソフトメタラジーの構築に資する要素技術を開発する立場で研究を行っている。その際,大きく分けて,(1)固体状の原料を次の工程で分離・精製し易いように分解するための要素技術,(2)原子・イオン状で個々の金属に分離・精製するための要素技術,そして,(3)目的にあった素材として金属を効率よく採取・製造するための要素技術が必要となると考えられる。実際のプロセスではこれらをうまく組み合わせて一貫した工程をつくることになるが,ここでは,(1)〜(3)それぞれの要素技術の開発がキーとなる研究を紹介することにする。

(1)複雑な組成の物質から特定金属を選択的に抽出する技術の開発
 金属生産過程において複雑な組成の物質から,特定の金属を効率よく選択的に採取する方法の開発は重要である。銅は金属の中でも非常に重要な金属であるが,その生産方法をいかに省エネルギー化するかが世界的に大きな課題となっている。現在,銅−鉄−硫黄からなる黄銅鉱は最も重要な資源の1つであるが,この鉱石は極めて頑丈で分解され難く,一般には自溶炉によって乾式処理する方法が行われている。しかし,この方法では,高温が必要となる他,発生するSOxの処理に多大のエネルギーを必要とすることが問題である。そこで,われわれは,NEDO提案公募プロジェクトとして「次世代環境低負荷型硫化銅鉱処理技術開発のための基礎研究」(平成8〜10年度)を三菱マテリアル椛麹研究所と共同で行い,(1)低温塩化焙焼によって,黄銅鉱を効率よく分解し,銅のみを水にも溶ける塩化物にする一方で,鉄は酸化鉄として,また,硫黄は元素硫黄として回収する,(2)その後,塩化物溶液系での溶媒抽出―電解採取によって高純度金属銅を回収する,というプロセスを提案するに至っている(図2は低温塩化焙焼装置)。この方法では,鉄分を選択酸化する際に最も高い温度が必要となるが,たかだか400℃程度であり,従来の乾式法に比較して非常に低温である。また,SOxは全く発生せず,鉄は扱いやすいヘマタイトとして回収できる。本方法は,反応物質として塩素を用いており,湿式処理の際には塩化物溶液となるが,硫酸溶液系と違い,銅イオンや鉄イオンの多価性を十分に活かすことができ,また,塩素を完全リサイクルすることが可能であり,湿式処理の立場からもメリットが非常に大きい。すなわち,このシステムは,乾式処理と湿式処理の有利なところを組み合わせたハイブリッドシステムであるといえる。このような塩素・塩化物を利用したクロライドシステムは,複雑な組成を有する合金等のリサイクルに非常に有効であろうと考えられる。

図2 低温塩化焙焼装置

(2)多様な金属が共存している系において個々の金属へと効率よく分離精製する技術の開発
 金属表面処理工程廃液の処理法としてスラッジ化が一般に用いられ,いわゆるメッキスラッジとして廃棄されている。すでに土地利用率の極めて高いわが国にとっては堆積場の不足が深刻な問題となっており,また,貴重な金属資源を利用する立場からみてもスラッジとして廃棄することは好ましくない。われわれは,工場内においてできるだけ複雑でない排液の状態で,金属さらには錯化剤等の添加剤を分離精製し,それらを再利用することのできる,オンサイト処理プロセス構築のための研究を平成11年度より4年間のプロジェクトとして始めている(「表面処理工程廃液の減量化技術開発のための研究」(平成11〜14年度)[公害特別研究])(概念図:図3)。このプロセスが可能となれば,金属資源リサイクルに大いに資することになるとともに,廃液はなくなるかあるいは極めて少なくなり,堆積場逼迫問題の解決にも有効であると考えられる。この研究開発でキーとなるのは,個々の金属さらには錯化剤を分離精製しつつ回収する技術の開発であり,これまでの溶媒抽出法のポテンシャルを活かしつつ,高効率な分離システムの開発を目指しつつある。また,所内の重金属対策融合研究ラボにも加わり,スラッジの問題を総合的に検討し,関係する課題を解決するための研究を並行して行っている。

図3 表面処理液循環プロセスの例

 

表2 わが国におけるリサイクル率
金  属 リサイクル率(%)
アルミニウム 67
53
亜鉛 24
57

 

(3)素材形成のために特定の反応を選択的に生じさせ形態を制御する技術の開発
 よく使われる金属の中で,亜鉛のリサイクル率は非常に低い(表2)2)。亜鉛は鉱石から製錬する際には非常に多くのエネルギーを必要とするため,今後は亜鉛のリサイクル率の向上が非常に重要となる。とりわけ,亜鉛メッキ鋼板に使われる亜鉛の量は多く,その一定部分は溶出してしまうが残りの部分を有効にリサイクルすることは非常に重要である。現行のリサイクルプロセスでは,最終産物として必要なのは金属亜鉛であるにもかかわらず,中間的に酸化亜鉛として回収するプロセスが2度組み込まれることにより,還元のために非常に多大のエネルギー・コストがかかるという問題がある。このプロセスを革新する立場から,「即効的・革新的エネルギー環境技術開発」の一環として,(財)金属系材料研究開発センターがNEDOから委託受け「省エネルギー型金属ダスト回生技術の開発」の研究を行っているが(平成10〜14年度),われわれは,電気炉からでる金属を含むガスから亜鉛を直接金属状で回収する研究について,上記センターと共同研究を行っている。大量に排出される使用済み亜鉛メッキ鋼板は電気炉によってまず処理されるが,その排出蒸気から,亜鉛を直接金属状で回収することができれば,亜鉛のリサイクル量の増大,省エネルギー型亜鉛リサイクルシステムの確立,さらには,product - to - productの立場からも大いに前進することにつながり,波及効果も大である。われわれは,蒸気状で出てくる亜鉛を,酸化亜鉛ではなく金属亜鉛として選択的に析出させる条件を,凝縮媒体及びプロセスの面から検討を行っている(基礎試験のための装置の図:図4)。

図4 バブリング式縦型亜鉛蒸気発生装置

4.今後の展開
 見方を転換すれば,使用済み金属製品は有用な金属資源として捉えることができる(二次資源,人工資源,マンメードリソーシズ等と呼ばれることがある)。天然金属資源の少ないわが国にも,このような資源は豊富である。二次資源からの金属生産を‘うまく’おこなうことができれば金属循環生産・利用システムが可能となる。では,‘うまく’やるとはどういうことか。まず,二次資源からの金属生産は省エネルギー型であることが必須である。また,システムとしてカスケード利用も必要であるが,product - to - productを可能とする有効な技術を開発しておくことが重要である。そして,二次資源になり難いものや有害となる危険性のあるものは産出・製造しないことが必要である。金属生産・加工・利用は,産業や社会の中で複雑にリンクしあっている。したがって,これらの新しいシステムの構築は極めて総合的な取り組みとなり,そのためには上述したような,ソフトメタラジーを目指すという包括的な指標が必要であると思われる。われわれは,これまでの製錬技術に関する研究で培ってきたポテンシャルを活かしつつ,産業界や大学と密接に情報交換や共同研究を行いながら,ソフトメタラジー構築にとって不可欠な要素技術の革新に資する研究により一層邁進していくことにしている。
1)資源・素材学会資源経済部門委員会編:「鉱物資源データブック」8.資源表(1998)より
2)平野政雄・桜井文隆:資源と素材,Vol.113,972-975(1997)より

素材資源部 レアメタル系素材研究室 小林幹男


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