特集
資源・素材研究分野におけるシミュレーション・予測手法
まえがき
特集を企画するにあたって
遠藤茂寿 (素材資源部素材物性研究室)
より高度な特性を持つ材料・素材の開発が進められている今日,こうした特性を発現するために,組成や形態,構造のより微細で精密な制御が求められている。微細な制御を実現するプロセスの設計にとって,現象や装置特性のミクロな解明が必要であり,そのためには計算機の利用は不可欠である。今日の計算機及び計算手法の飛躍的な発達は,このような要求のかなりな部分に対する解答を可能にしている。
ところで,資源環境技術総合研究所における資源・素材分野の研究,あるいは,資源循環に関する研究は,鉱物資源の処理から素材化・機能化,廃棄物の処理,資源リサイクルと,極めて広い範囲のプロセス・技術をカバーしている。当然,これらでは計算機を利用したシミュレーションや予測に関する研究が行なわれている。物質の生成過程及びそれを取巻く流れ場や温度場の解析,資源精製プロセスの性能及び動特性,生成物質の動的変化の評価や記述,生成物と環境との間や生成物間の相互作用の解明,資源循環の評価など,その対象や手法も極めて幅広い。そこで,資源環境技術総合研究所の素材研究分野での計算機を利用した研究の一端を紹介し,読者諸賢の研究の一助となればと考え,本特集を企画した。
シミュレーションは非常に有益な情報を我々に提供する極めて効率的な手段である。特に,装置の改良やスケールアップにあたり実験的な労力を大幅に削減できる。しかし,その利用にあたっては,シミュレーションの結果が基礎となったモデルや用いたパラメーターに依存することに,注意しなくてはならない。シミュレーションのミクロ的な解明と実験によるマクロ的な検討の対比を常にベースとすべきことは当然なことである。
先にも述べたようにこの分野は非常に巾広く,研究対象,研究手法も多岐に亘り,扱っている計算手法も多様である。したがって,それらを一括して特集することにはやや無理な面もある。しかし,この分野で今後,計算機利用を進めようと考えておられる方々に,多少なりとも端緒となる情報を供することができれば,本企画の目的の大半は達せられたことになる。
解説
金属イオンの多段溶媒抽出プロセスのシミュレーションと解析
田中幹也 (素材資源部レアメタル系素材研究室)
要 旨 工業的な金属溶媒抽出操作においては,十分な抽出,分離を達成するために,通常,多段の操業が行われる。多段溶媒抽出プロセスの挙動に対しては,非常に多くの操作変数が影響を及ぼすので,これらの効果を評価するために,コンピュータシミュレーションが重要な役割を果している。本稿では,多段溶媒抽出プロセスに関する我々の研究結果を,(1)
向流多段抽出−逆抽出プロセスのシミュレーション,(2)
シミュレーション結果の定常状態局所線形化による解析,(3)
定常状態局所線形化に基づく新しいシミュレーション方法の提案,および(4)
アンモニアアルカリ性溶液からの銅とニッケルの多段分離回収に関するシミュレーションの4点に分けて解説する。
解説
離散要素法 − 固体混合の仮想実験
János SZÉPVÖLGYI,遠藤茂寿(素材資源部 素材物性研究室)
要 旨 Kenics型のスタティックミキサーを配したバッチ型重力混合機内における個々の粒子の3次元運動が数値シミュレーションされている。粒子−粒子間,および,粒子のモデルは,バネとダッシュポット,および,摩擦スライダーで接触力を表現する。混合プロセスにおいて到達可能な均質性や混合機の効率に対する種々のパラメーターの影響が検討されている。また,個々のシミュレーション結果は,現実の粒子流れと非常に近い画像イメージを与えることが出来る。
解説
極限素材プロセスをシミュレートする
−プラズマ流れ場の解析−
菅澤正己,菊川伸行(素材資源部 珪素系素材研究室)
要 旨 熱プラズマとはその主要部分で,電離により生じたイオンと電子が電気的中性を保ち,電子と重粒子(原子,イオン)が局所熱平衡状態を維持した状態を言う。1960年代より熱プラズマを用いて超微粒子や薄膜等の素材を合成する研究が盛んに行われてきた。熱プラズマを用いた素材合成プロセスには,急峻な温度低下による急冷効果により通常の熱化学反応では生じない化学量論比や結晶相を有した化合物を合成する可能性がある。また熱プラズマ流の有する高流速により他の気相法や液相法に比較して素材合成を迅速に行える利点がある。しかしながら膨大な電力消費量,プラズマの不安定性による原料投入量の限界等の問題点も多々存在する。これらの問題を解決し目的とする素材をより良く合成するためには,プラズマの速度分布,温度分布,物質濃度分布等の物理的特性を解析し制御することが必要である。また超微粒子・薄膜合成プロセスを最適化するために,プラズマ尾炎部における核生成・粒子成長過程を解明しなければならない。従って本総説においては,これらのモデル計算に関する過去の研究例を総合的に考察し,今後解決すべき問題点を探る。
解説
プラズマに供給された粒子の運動と熱移動のシミュレーション
Kandasamy RAMACHANDRAN,菊川伸行(素材資源部 珪素系素材研究室)
要 旨 プラズマによる加熱は様々な材料プロセシングに用いられている。プラズマ自体の物性が複雑であることとともにプラズマ加熱過程に多くの操作パラメーターが関与しているために,プラズマの制御は依然として難しい問題である。この問題の解決のためにはプロセスの基礎的な理解が不可欠である。プラズマ加熱過程に含まれる基礎的物理現象を理解するために,多くの研究者がその数値モデル化に挑戦しており,様々な観点からプラズマ−粒子相互作用に関して論文が発表されてきた。本稿では,プラズマ溶射や微粒子合成,固形廃棄物処理のプロセスを念頭に置いて,プラズマ中に供給された粒子への熱移動,物質移動,及び運動量移動についてのモデル化とそのシミュレーションについて概説する。
解説
素材状態を診断する
−超音波による素材探傷法のシミュレーション−
林 高弘(素材資源部 素材物性研究室)
要 旨 素材の非破壊検査には超音波が広く用いられている。本報では,超音波非破壊検査の高度化に役立つ超音波伝播シミュレーション法について述べる。まず差分法,有限要素法,境界要素法などの従来の汎用的な方法について概説し,さらに従来法では困難なラム波伝播のシミュレーション法に関して,最近開発が進んだ計算手法について述べる。
解説
資源循環プロセスを評価する
大矢仁史,遠藤茂寿 (素材資源部素材物性研究室)
稲葉 敦 (エネルギー資源部 エネルギー評価研究室)
要 旨 リサイクルが地球環境にとって重要であるといわれているが,その定量的な評価を行うことは非常に難しいことが多い。もっとも一般的に用いられるその評価法としては,ライフサイクルアセスメント(LCA)があげられる。ここでは,廃家電製品,食品容器,ビデオテープのリサイクルなどをLCA評価した例について解説する。
また,熱力学で用いるエクセルギーを使って,リサイクルシステムのエクセルギー減少量から環境負荷を試算する方法についても紹介する。 |