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2001年2月

亜酸化窒素(N2O)問題とその低減技術

熱エネルギー利用技術部 燃焼工学研究室 宮寺達雄

 本稿では, N2Oにまつわる問題の現状を簡単に説明するとともに,当研究所において行われた研究の一端を紹介し,今後の研究開発の必要性を理解して戴く一助にしたいと思います。N2Oの低減技術については,現在研究室において基礎的な研究が小規模に行われているに過ぎません。

Q. N2Oの何が問題なのですか
 N2Oは毒性がなく吸入麻酔薬にも使われている安全な物質です。しかし,地球温暖化物質のひとつであり, N2O 1分子は二酸化炭素(CO2) 310分子に相当する温暖化効果があります。 COP3 (第3回国連気候変動枠組条約締約国会議, 1997年,京都)において, CO2,メタン(CH4)などと並んで排出削減対象ガスのひとつに指定されました。また,N2Oは化学的に安定なため対流圏内でほとんど消滅せず,成層圏に輸送され,そこで紫外線で分解されたり,酸素原子と反応してNOを生成したりします,寿命は120年程度と見積もられています。それゆえ, N2Oは成層圏内のNOとNO2の重要な起源物質になります。生成したNOは成層圏のオゾンと次式のように反応して,触媒的にオゾンを消滅させるので,N2Oの濃度増大はオゾン層の破壊につながります(塩素原子によるオゾンの破壊がない場合)。

NO + O3 → NO2 + O2
NO2 + O → NO + O2
 仮にN2Oの濃度だけを現在の2倍にすると,オゾンは約10%減少すると見積もられています。
 IPCC (気候変動に関する政府間パネル: Intergovernmental Panel on Climate Change)の資料によると,大気中N2O濃度は産業革命以前の275ppbから1994年には312ppbへ増加し,年増加率は0.25%と推計されています1)。西暦2020年には,大気濃度が50〜100ppb増加して,温室効果とオゾン層の破壊に果たす役割が相当大きくなると予想されています。
Q. N2Oはどんなところから排出されていますか?
 N2Oの発生源には自然発生源と人為発生源があり,その内訳は表12)のようになっています。海洋,熱帯土壌の湿潤森林・乾燥サバンナ,温帯土壌の森林・草地などの世界中の自然発生源からN2Oが年間6.8〜23.1百万トン発生していると推定されています。一方,耕地土壌,バイオマス燃焼,工業,畜産などの人為発生源からは年間5.8〜12.1百万トン発生していると推定されています。成層圏で破壊されるN2Oは年間14.1〜25.1百万トンであり,発生量との差の分だけ蓄積されて行き大気中のN2O濃度を上昇させます。
自然発生源
海洋 1.6-7.9
熱帯土壌 湿潤森林 3.5-5.8
熱帯土壌 乾燥サバンナ 0.8-3.1
熱帯土壌 森林 0.2-3.1
熱帯土壌 草地 0.8-3.1

小計 6.8-23.1
人為発生源
耕地土壌 2.8-8.3
バイオマス燃焼 0.3-1.6
工業 1.1-2.8
牛とフイードロット 0.3-0.8

小計 5.8-12.1

合計 12.6-35.2

 

表1 世界の亜酸化窒素排出状況の推定2) (百万トン/午)

 

Q.なぜN2Oの排出を削減するのですか?
 図12)にN2Oなどが地球温暖化に寄与する割合を示します。地球温暖化への寄与が最も大きいのは言うまでもなくCO2ですが,燃焼排ガスなどからCO2を分離回収するにはかなりコストがかかります。また, CO2は回収した後の処理も必要で,これにもコストがかかります。メタンの人為発生源は家畜のはんすうガス,水田,バイオマス燃焼,埋立処分された廃棄物などであり,コントロールが非常に難しいという事情があります。クロロフルオロカーボン(CFC),ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)も,すでにオゾン層保護の観点から規制が実施されています。一方, N2Oの人為発生源のうち生物系以外の排出源は,現在既に実用化されている排煙脱硝などと同程度のコストで処理が可能と考えられます。費用対効果ということを考えると, N2Oの排出を削減することは理にかなったことなのです。
図1 産業革命以降人為的に排出された室温効果ガスによる地球温暖化への直接的寄与度(1992年時点)
図1 産業革命以降人為的に排出された室温効果ガスによる
地球温暖化への直接的寄与度(1992年時点) 2)
CFC:クロロフルオロカ7iボン
HCFC:ハイドロクロロフルオロカーボン
Q. N2Oの排出実態および削減技術はどうなっていますか?
 人為発生源のうち耕地土壌については,窒素肥料の使用などにより土壌中に窒素分が入ると,土壌中の微生物によるアンモニウムイオンの硝酸イオンヘの好気的酸化,硝酸イオンの窒素への嫌気的還元の過程でN2Oが生成することによります。窒素分は化学肥料の他に家畜の排泄物,作物の残りかす,豆などの窒素を固定する作物によって土壌中にもたらされます。人為発生源と言っても,上記のように生物,自然が相手の農業においてN2Oの排出を抑制することは,経済的に非常に高くつさます。たとえば,肥料の使用効率を総合的に改善してN2Oの排出を減らす対策は, N2O1トンあたり60,780ドルかかると試算されています3)。生物系以外の人為発生源について見ると,アジピン酸製造,硝酸製造などの化学工場,石炭,下水汚泥などの流動層燃焼装置が主なN2Oの発生源になっています。また三元触媒を装着した自動車も大きな発生源の一つになっています。図24)に日本で1年間に人為的に排出されるN2Oを発生源別に示しました。以下,生物系以外の主な人為発生源について個々にN2Oの排出実態を説明するとともに,どのような削減技術があるか見ていくことにします。
図2 日本におけるN2Oの人為的発生源4)
総排出量:年間80,900トン
アジピン酸工場
 ナイロンの原料になるアジピン酸[HOOC(CH2)4COOH]は,シクロヘキサノン[C6H10O]およびシクロヘキサノール[C6H11OH]の混合物又はシクロヘキサノール単独の硝酸酸化反応により製造されています。主要な反応は以下の式で表されます。
C6H10O + 1.5HNO3 → HOOC(CH2)4COOH + 3/4N2O + 3/4H2O
C6H11OH + 2HNO3 → HOOC(CH2)4COOH + N2O + 2H2O
上式から分かるように,アジピン酸とともにN2Oが副生します。排ガス中のN2O濃度は, 30〜50%と非常に高い。世界中のアジピン酸製造能力は年産2,305,000トンですが,主要7社で約88%を占めているためN2O発生源の数としては少なく,排出濃度が高いこととあいまって対策が立てやすい。アジピン酸製造工程から排出されるN2Oは,触媒分解又は気相熱分解で90%以上を除去可能で,主要企業は既に1998年度中に対策をとっています。
固定燃焼装置
 固定燃焼装置からのN2Oの排出は,主に燃料中の窒素分が低温で燃焼するときにN2Oが生成するために起こります。燃料種別に見ると,石炭や下水汚泥は窒素分の含有量が多いためにN2Oの排出濃度が高くなりやすい。燃焼形態別に見ると,流動層燃焼装置は燃焼温度が約850℃と低いためN2Oの排出濃度が高くなります。その他の燃焼炉は温度が1000℃以上なのでN2Oの排出濃度は低い。流動層燃焼とは,砂などの流動媒体に下から空気を吹き込んで流動状態にしたところへ数mm程度の固体燃料を投入して燃やす方法です。流動層燃焼でも温度を高くすればN2Oの分解反応が起こってN2Oの生成は少なくなります。しかし,石炭などの流動層燃焼においては流動媒体として石灰石を用い,燃焼炉内でSOxを吸収させる脱硫も同時に行っており,高温にすると脱硫率が低下するため,やたらに温度を上げることができません。
 固定燃焼装置におけるN2Oの生成を抑制する技術は、燃料改善と燃焼改善に分類されます。燃料改善としては、(1)窒素分の少ない燃料の使用,(2)揮発分の多い燃料の使用が,燃焼改善としては (3)燃焼温度の上昇,(4)酸素濃度の低下,(5)接触粒子との混合促進,(6)高圧化(加圧流動層燃焼)などがあります。しかし,これらの対策は燃焼効率や脱硫率の低下を招く場合があります。また,当所の鈴木・守富ら5)が明らかにしたように,流動層燃焼ではN2Oを減らすとNOxが増え,NOxを減らすとN2Oが増えるというトレードオフの関係があります。それ故,燃焼効率や脱硫率を低下させずにN2O,NOxを同時に低減するためには,実際の燃焼装置について上記の対策のもたらす効果を明らかにするとともに,燃焼条件をよりきめ細かにコントロールする必要があります。そのためには,N2O,NOx,SOxをリアルタイムで連続的に計測して,情報を燃焼空気や石灰石供給量の調節にフイードバックするといったシステム化も必要です。
 生成してしまったN2Oを分解などによって減らす技術は,高温処理と低温処理の二つに分類されます。高温処理には(1)気相熱分解,(2)媒体粒子による接触分解があり,低温処理には(3)分解触媒,(4)選択還元触媒,(5)非選択還元触媒,(6)電気化学的直接分解などがあります。(1)は燃焼炉内の後流部に補助燃料を吹き込んでアフターバーニングすることによって高温にして気相でN2Oを熱分解する方法であり,補助燃料コストがかかります。また,補助燃料の投入は二酸化炭素排出の増加をもたらすため, N2O濃度の高い燃焼ガスに適用しないとトータルな温暖化ポテンシャルの低減につながりません。(2)は流動層燃焼の媒体粒子としてN2O分解活性を有するアルミナなどを添加する方法であり,NOx濃度の増加を伴う場合もあります。 N2O分解活性が高く,NOxの増加ももたらさない,耐久性の高い媒体粒子の開発が必要です。これらの高温処理方法は固定燃焼装置と一体で適用される技術ですが,低温処理方法である(3),(4),(5),(6)の適用は固定燃焼装置に限定されるものではなく,場合によっては工場排ガス,自動車排ガス,医療現場の麻酔ガスなどにも適用可能です。(5)の非選択還元触媒を使用する方法は,排ガス中に大量に共存する酸素を全部消費するより多くの還元剤を添加してはじめてN2Oの還元が起こるので,還元剤コストがかかります。(6)の電気化学的直接分解法は,電気エネルギーの助けを借りてN2Oを分解するので,常温の排ガスでも処理できるメリットがあります。(3)の低温分解触媒と(4)の選択還元触媒については項を改めて説明します。
自動車
 自動車からのN2Oの排出の大部分は三元触媒を装着した車からのものです。三元触媒とは,ガソリン自動車排ガス中のCO, HC (炭化水素), NOxという三つの有害成分を,理論空燃比(燃料を理論的に完全燃焼できる最小の空気と燃料の重量比)付近で同時に除去するための触媒でPt,Rh,Pdなどの貴金属を含んでいます。車の走行距離が長くなると三元触媒が劣化してN2Oの排出が増えるので,触媒の劣化対策が重要です。N2Oは又,車のスタート直後の三元触媒の温度が低いときに高濃度排出されます。N2Oの排出にはさらに,空燃比,担持金属の種類なども影響を及ぼします。N2Oの排出を減らすために温度,空燃比,触媒成分などを変更することは,CO,HC,NOxの排出に影響を与えます。それ故,三成分に加えてN2Oも同時に低減できる最適条件を探す必要があります。後述するN2O分解触媒の高性能のものが開発されれば,三元触媒の後ろに付けたり,三元触媒そのものにN2O分解機能を付与することも可能になります。
 リーンバーンガソリンエンジン用のNOxを吸蔵した後還元除去する新しいタイプの三元触媒やハイブリッド車も実用化され,燃料電池車の開発も急ピッチですが,従来型の三元触媒を装着した自動車もまだたくさん走っているので,これについてN2O低減対策を施す必要があります。
アンモニア排煙脱硝装置
 アンモニアを用いてNOxを選択還元する排燵脱硝法は,普通の固定燃焼装置に適用した場合にはN2Oの副生が少ないが,コンバインドサイクル用のガスタービン排ガスに適用した場合には温度が高いためにN2Oの副生が多くなる,という問題が指摘されています。対策としては,固定燃焼装置排ガスのN2O対策と同じようにN2Oの分解触媒をつけるか,N2Oをアンモニアで選択還元でさる触媒をつける方法が考えられます。現在用いられている脱硝用触媒を高温でもN2Oの副生が少ないものに改良するという方法もあります。また,炭化水素類を用いる高性能なNOx選択還元触媒が開発されれば,アンモニア排煙脱硝法そのものに取って代わられる可能性もあります。
Q.排気ガスからN2Oを除去する技術開発はどこまで進んでいますか?
2O分解触媒
N2O分解触媒の作用メカニズムは以下のように考えられています6)。触媒表面上の空のサイトをで表すと,触媒上のN2Oの分解は,
N2O + * → N2 + O* (1)

のように起こります。 O*は吸着酸素原子です。

 N2O分解反応が連続して起こるためには空のサイトが再生しなければなりませんが,その過程は次のように二つ考えられます。

2O* → O2 + 2* (2)
N2O + O* + N2 + O2 + * (3)

 (2)式は吸着酸素原子の再結合によるO2の生成であり,比較的高温で反応が進行する酸化物触媒で起こると考えられています。一部の担持金属触媒では,(3)式によるO2の生成の可能性が提唱されています。高活性なN2O分解触媒を得るには,酸化物触媒では(2)式の反応を促進するために低温での酸素の脱離を容易にすることが必要であり,担持金属触媒では(3)式の反応を促進するために吸着酸素原子O*の反応性を高めることおよび活性点数を増大させることが必要です。

 実用を目指した触媒の研究例としては,以下のようなものがあります。担持触媒の担体としてはアルミナ,シリカ,ジルコニア,ゼオライト等が使用されています。 N2O分解触媒として活性が高い成分は,Rh,Ru,Co,Cuであり,ハイドロクルサイト,ゼオライト,アルミナ等にイオン交換あるいは担持した触媒が高活性です。 Rh担持触媒については,担体の種類,添加物,処理条件の影響等が検討されています。当所の大井ら7)は,各種酸化物に担持したRh触媒の中でRh/ZnOが最も活性が高いことを明らかにしました。

 Rhの担体としてCeO2を用いた例が多い。 RhはCeO2から酸素を引さ抜いて気相へ放出するためRh/CeO2では酸素の脱着が著しく促進されます。 Rh/CeO2ではまた,Rh本来の活性の他に,Rhの担持によって生成したCeO2上の酸素欠陥もN2O分解の活性サイトとして働さます8)
 N2O分解触媒を実用化するためには,O2, H2O,NOx,SO2などが共存する条件下でも活性の低下しない触媒を開発する必要があります。 N2O+O2/Heというクリーンな条件下では,種々の触媒の中でRh/ZnO が最も活性が高いと言えます。しかし, Rh/ZnO も水分やNO2が共存すると活性が低下します9)。大井ら10)は,ハイドロクルサイトを前駆体とした,Zn,Al,Rhを含む複合酸化物触媒が,水分, NO2共存下でも高活性を示すことを明らかにしました。Co,Rh,Al を含むハイドロクルサイトにMgを添加すると, SO2に対する耐久性が向上することも報告されています11)。N2O分解触媒に関する研究は着実に進展していますが,引さ続き活性に及ぼす種々の要因を更に詳しく調べ,実ガス条件下でも高性能を発揮する長寿命な触媒を開発する必要があります。
2O選択還元触媒
 上記のように,水分,NOx,SO2等によってN2O分解触媒の活性が低下することは克服されつつあります。しかし,これらの妨害成分の存在下,低温でN2Oを分解でさる触媒はまだ開発されておらず,実ガス条件下でのN2O直接分解の難しさが伺われます。そこで,NOxの選択還元と同じように還元剤を添加してN2Oを選択還元する試みがなされています。瀬川ら12)によれば,2価の鉄イオンでイオン交換したZSM-5触媒は酸素,水分によってN2O分解活性が著しく低下しますが,プロピレンが共存すると酸素,水分の存在下でも高いN2O除去性能を示します。プロピレンがN2Oを選択的に還元する反応がFe-ZSM-5触媒上で起こっているのです。 Fe-ZSM-5触媒はSO2の存在下でも活性が低下しませんが,NOの存在下ではかなり活性が低下します13)
亀岡ら14)は,ベータゼオライト(BEA)に2価の鉄イオンをイオン交換した触媒がメタンによるN2Oの選択還元に高活性を示すことを見出しました。この反応系では,図3に示すように, N2Oの反応と同時にメタンのCO2への反応も低温で起こっています。メタンは地球温暖化物質の一つであり,反応性が低いため通常の触媒では低温で除去するのが難しいものです。このメタンが,Fe-BEA触媒上で簡単にN2Oと反応して酸化されるということは, Fe-BEA触媒によってメタンとN2Oの同時除去が可能であることを示唆しています。
図3 Fe-BEA触媒を用いたメタンによるN2Oの選択還元
NOx選択還元触媒
 ディーゼル排ガス用に炭化水素類を用いてNOxを選択還元する触媒の研究が進められています。NOx選択還元触媒については,低温活性の向上や水分,SOx存在下での活性向上,水熱条件下での触媒の安定性向上に研究が集中しており,N2Oのことはあまり考慮されていないのが現状です。
 自動車排ガスの処理に使用するためには低温活性が要求されますが,現在のところ低温で働くNOx除去触媒としては白金系触媒しか見い出されていません。しかし,当所の小渕ら15)が明らかにしたように,白金系触媒の中にはPt/Al2O3のように,著しく高濃度のN2Oを副生する例もあります。今後, N2Oの排出を増加させないためにはN2Oの副生の少ないNOx除去触媒の開発を促進する必要があります。
Burch ら16)は,Pt/Al2O3触媒を用いて種々の還元剤でNOxの選択還元試験を行い,トルエンを使用したときだけN2Oの副生がないことを見出しています。実用上,トルエンのみを還元剤に使用する訳にはいかないので応用範囲が限られるでしょうが,興味ある現象です。白金系触媒でも調製方法によってはN2Oの副生が少ない触媒が得られるということが報告されています17)。ゾル-ゲル法で調製したPt/Al2O3触媒は,通常の含浸法で調製した触媒よりプロピレンによるNOxの選択還元においてN2Oの副生が少ない。
 触媒Ag/Al2O3を用いてエタノールでNOxを選択還元する方法は当所の研究によって開発されたもので,低温では水分共存下の方がNOx 除去性能が高いという特徴があります18)。この場合,還元されたNOxの大部分はN2になりますが,一部はN2O,NH3,HCNなどの合窒素化合物になります19)。副生した含窒素化合物を貴金属系触媒で酸化処理するとNOxが再生するとともに, N2Oが生成します。一方,銅系触媒を用いて含窒素化合物を処理すると,NH3,HCNなどとNOxが反応してN2を生成するため,NOx 除去率が高くなります20)。Ag/Al2O3触媒上でのエタノールによるNOxの選択還元の場合,水分,SO2両者が共存すると図4に示すように,低温域でN2Oの副生が著しく高くなります。このNOx選択還元法の場合も, N2Oの副生を少なくするように触媒を改善する必要があります。
図4 Ag/Al2O3触媒上でのエタノールによるNOxの選択還元
 メタノールを用いたNOxの選択還元法の場合,活性の高い触媒としてはAl2O3,Co/Al2O3,Sn/Al2O3などが知られています。 Al2O3ではN2Oの副生が非常に少ないが, Co/Al2O3では低温域でN2Oの副生が増大します。Ag/Al2O3は,エタノール等のC2以上の合酸素化合物によるNOxのN2への還元には高活性を示すが,メタノールによる還元活性は非常に低い。一方, Ag/Al2O3をハロゲン化合物や硫酸塩で処理したAgl/Al2O3やAg2SO4/Al2O3は,図5 a)に見られるようにメタノールによるNOxのN2への還元にかなり高い活性を示します。しかし,アルミナ担持の銀系触媒(Ag,AgCl,Agl/Al2O3)では,図5 b)に示すようにN2Oの生成濃度が非常に高い21)。メタノールによるNOxの選択還元の場合, N2O以外の有害な含窒素化合物の副生は少ない。
図5 アルミナ丹持銀触媒上でのメタノールによるNOxの選択還元
 NOxの選択還元の場合,触媒の活性種,担体,調製法,還元剤の種類などがNOx還元性能とともにN2Oの副生に大きな影響を与えるので,これらの作用メカニズムを解明しながらN2O副生の少ない高性能な触媒を開発する必要があります。
Q.資源環境技術総合研究所における研究成果にはどのようなものがありますか。
 当所におけるこれまでの基礎研究で,以下のような研究成果が得られています。
  1. 流動層燃焼においてN2OとNOxの間にトレードオフの関係があることを明らかにしました
  2. N2O分解触媒の研究においてRh触媒,特にRh/ZnO 触媒が非常に高活性であることを明らかにしました。また,ハイドロクルサイトを前駆体とした,Zn,Al,Rhを含む複合酸化物触媒は,水分,NO2という妨害成分共存下でも高活性を示すことを明らかにしました
  3. 筑波大学との共同研究において,Fe-BEA触媒がN2Oとメタンの同時除去の可能性を持つ優れた選択還元触媒であることを見出しました。
  4. NOxの炭化水素による選択還元において白金系触媒が高濃度のN2Oを副生することを明らかにしました。また銀/アルミナ系触媒がエタノールを用いたNOxの選択還元に高性能を示すこと,エタノールなどの合酸素化合物によるNOxの還元においてはN2O等の副生が炭化水素の場合より多いことを明らかにしました。メタノールによるNOxの選択還元では,触媒によってN2Oの副生挙動が著しく異なることを明らかにしました。
 N2Oの排出を削減して地球の温暖化,オゾン層の破壊を防止するためには,さらに多くの研究資源を投入して研究開発を促進する必要があります。
参考文献
A) 地球環境産業技術に係わる先導研究亜酸化窒素の排出低減技術に関する調査研究成果報告書(平成9年3月)
B) ibid.,平成10年3月
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18) T. Miyadera, Appl. Catal. B, 2, 199(1993)
19) T. Miyadera, Appl. Catal. B, 13, 157(1997).
20) T. Miyadera, Appl. Catal. B, 16, 155(1998).
21) 宮寺達雄,浮須祐二,亀岡聡,日本化学会第77秋季年会, 3P3AO12(1999).

熱エネルギー利用技術部 燃焼工学研究室 宮寺達雄




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