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NIREニュ−ス

1995年12月

神岡鉱山での水圧破砕試験

− 岩盤内のき裂はどのように進展するか −

地殻工学部 地殻エネルギー研究室 山口 勉

1.はじめに
 「地下は見えない」というのが一般の常識である。実際に夜空を見上げれば数万光年離れた星を見ることができるのに,高々数メートル足下の地下は掘ってみなければ,その様子を知ることはできない。 数十年前に書かれたSF小説の中には,宇宙を扱ったものがあるのはもちろん,地底世界での冒険談を扱ったものもある。前者は技術の飛躍的な進歩に伴い,月への旅行等,夢が夢でなくなったものもある。これに対して地下の開発は宇宙開発ほどには進展していないように見える。
 しかしながら,実際には地下の開発も数十年前と比較して着実に進歩している。太古の昔には人類は洞窟の中で生活していた。近年は洞窟を住居とする人は殆どおらず,地下空間の新しい利用法が考えられるようになってきた。 例えば,この地下利用の新しい方法として,地下空間内に石油や天然ガスを貯える,あるいは圧縮した空気を貯蔵してエネルギー源とする等の方法が挙げられる。本ニュースでは,「見えない」地下のき裂の様子を知るために,神岡鉱山で行った水圧破砕実験の概要について紹介する。
2.水圧破砕とは
 岩石はもともと堅固なものである。例えば,墓石としてよく用いられる御影石は,圧縮強度が200MPa程度であり,1平方センチメートルの面積を持つ御影石に,通常の乗用車を1台乗せても押しつぶすことができない。と同時に,岩石はもろいという性質も持っている。 もろさの程度を表す度合いとして「ぜい性度」を用いることがあり,この値が大きければ大きい程もろいことになる。このぜい性度は,圧縮強度と引っ張り強度との比で計算し,軟鋼はほぼ1であるのに対して,御影石では20程度と極めて大きな値である。 前述の例で言えば,1平方センチメートルの御影石は,大人2人の体重で引っ張れば,容易に壊すことができることになる。

 この引っ張りに弱いという岩石の性質を利用すれば,岩盤内部の空間に水圧を加えることによりき裂を入れることができる。これを岩盤の水圧破砕と呼ぶが,水圧破砕では「破砕」という言葉からイメージされるように「粉々に砕く」わけではなく,き裂を入れるという程度の意味である。 この際に必要な水圧の大きさは,岩石の引っ張り強度と,岩盤そのものに加わっている圧力(地圧と呼ぶ)との和である。したがって,岩盤の引っ張り強度が分かっていれば,地圧の大きさを知ることができる。
 また,水圧を加えた際のき裂が進展する方向と地圧の方向との間には密接な関連のあることが知られており,水圧破砕試験を行うことにより,地下の応力状態を堆定することができる。
 水圧破砕技術は,このように地下の応力状態を知るための基礎的な技術として用いられる他,実用的にも地下深部の高温の岩盤内に巨大な熱交換面を作成するためにも用いられることがある。
 この水圧破砕技術を用いて,山形県最上郡大蔵村肘折地区では,地下2kmの岩盤内に数百メートルの広がりを持つき裂面を作成した実績がある。
3.岩盤内のき裂がなぜ重要か
 前に述べたように,岩盤を構成する岩石そのものは極めて堅牢であり,実際に強度等の面から問題となるのは岩盤内部のき裂であることが多い。 例えば,地震の発生は極めて大きなき裂である活断層に支配されることが多く,トンネルの掘削においても,対策に苦慮するのはき裂を多く含んだ岩盤である。また,石油備蓄や空気貯蔵の場合には,岩盤内のき裂からの漏れを防ぐことが重要である。
 このように,岩盤内のき裂の挙動を調べることは,学問的にも実用的にも非常に重要である。しかしながら,これも既に述べたように,岩盤内部のき裂自体を直接見ることができないために,き裂の挙動に関しては不明な点が多い。 例えば,水圧破砕試験で,ある量の水を加圧しながら送った際にき裂が岩盤内のどの範囲まで進展するのか,岩盤内のき裂の開口幅はどの程度の大きさなのか,又き裂の開口幅と送水圧力・流量との関係などは良く分かっていないことの一部である。

 地殻エネルギー研究室では,従来より実験室で比較的小さな大きさの岩石を対象として実験を行ってきた。実験室で用いている岩石の試験片は一片が20cmの立方体の形状をしており,この試験片のほぼ中心部まで穴をあけ,岩石試験片内部に水圧を加えて破砕を行う。 この大きさの試験片で水圧破砕を行うと,き裂は瞬時に境界面まで達するため,き裂の進展を逐次的に観測することが困難である。そのため,水圧破砕の対象とする岩石の大きさをなるべく大きくとるために,鉱山の坑道壁面を用いて実験を行い,間接的な方法ではあるが,水圧破砕に伴い,岩盤の表面がどの程度変形するかを測定して,水圧破砕面の進展を准定することとした。
4.どのような実験を行ったか
 実験を行った場所は,岐阜県吉城郡にある神岡鉱山の茂住抗である。神岡鉱山は1,200年の歴史を持つ日本でも有数の鉛・亜鉛鉱山であり坑道の総延長は1,000kmで切羽数は120,鉱石の採取量は年間に約100万トンである。 同鉱山は近年は地下利用にもカを入れており,現在は地下1,000mに直径40mのドーム状空間(スーパーカミオカンデ)を建設中である。
 図1は実験を行った坑道の写真である。この写真の左側に写っているのが(研究員の頭の後ろにある)直径76mm,探さ6mの水圧破砕に用いるための孔井であり床面よりほぼ1mの高さに水平に削孔されている。この孔の方向は南から東へ向かって約30度である。 実験の手順について簡単に述べると以下のとおりである。まず,水圧破砕を行おうとする箇所に型取りパッカーを用いて,孔内の天然のき裂の状況を調べる。パッカーとは,孔径よりやや小さい径を持つ長さ50cm程のゴム製の筒である。
 このパッカーに樹脂のフィルムをかぶせ,孔内でパッカーを水圧により膨らませて,き裂のパターンを樹脂フィルムに写し取る。図2は型取りパッカーの写真であり,樹脂フィルム(熱可縮性)をパッカーにセットしているところである。

 水圧破砕を行う場合,もともと天然のき裂が多い場所では,その天然き裂から水が漏れるため,新規にき裂を作成することが困難であることが多い。したがって,樹脂フィルムに記録された天然き裂の有無を詳細に検討しながら,比較的岩盤の堅固な箇所を探すわけである。この水圧破砕孔では測定の結果,孔口からの距離が2.55m,1.61m及び1.25mの3カ所には,天然のき裂が少ないことが分かった。そこで,今回の水圧破砕試験は孔口からの距離が2.55mの箇所で実験を行うこととした。

 今回の水圧破砕のように,孔井内のある特定の箇所のみに水圧をかけてき裂を造ろうとする場合,2つのパッカーで水圧破砕区間を区切り,その間のみに水圧が加わるようにする。このパッカーは1対のゴム部よりできているため,ダブルパッカーと呼ばれる。 通常,ダブルパッカーを用いて水圧破砕を行った場合,新しくできるき裂は孔井の方向に沿ってできることが多い。今回の実験の主目的は,坑道岩盤壁面で観測される微少な変位から岩盤内部のき裂の進展挙動を推定することである。したがって,き裂の進展する方向は岩盤壁面と平行である方が望ましい。 そこで,アブレシブ・ウォーター・ジェットを用いてボアホール軸に直交する円盤状のスロットの切削を行った。アブレシブ・ウォーター・ジェットでは,微細なガ−ネット粉を水と混合して孔内に吹き付け,スリットを切削することができる。 このスロットを切削した後に前述の型取りパッカーで,再び孔内壁面のパターンを写し取ったところ,スロットの幅は2〜3mmであった。円盤状スロットの探さがどの程度であるかは不明であるが,従来の経験によればおおよそ6〜8cm程度であると思われる。

 このように水圧破砕箇所に前もって円盤状スリットを切削した後,ダブルパッカーを用いて水圧破砕を行った。水圧破砕のための送水は圧気駆動式のプロバイダを用いており,送水流量は全実験期間を通じておおよそ1500cc/min. である。
 本実験におけるキー・ポイントは岩盤表面の変位量を如何に精度良く測定するかにある。そこで分解能0.1マイクロメートルのLVDT(差動変位計)を用いて,変位を測定することとした。このLVDTは,モルタルを打設した床面に鋼鉄製のフレームを組み,このフレームに合計で4個設置した。この様子を図3に写真で示した。 これらのLVDTは図3に示すように水圧破砕孔に向かって,破砕孔中心から左側にLl及びL2,右側にRl及びR2の合計で4個を設置した。Ll及びR2の破砕孔中心からの距離は0.5m,L2及びセ2の距離は1mである。

 送水圧力や変位量等のデータの採取はデータ・ロガ−を用いて行った。このデータ・ロガ−は,約4分間にわたって0.5秒毎にサンプリングを行い,内部メモリーが一杯になると,その内容をフロッピー・ディスクに書き込むようになっている。この書き込みに10分間程度要するため,実験全体の流れは,4分間実験して10分間休むという繰返しになる。 図4は,横軸に経過時間,縦軸に送水圧力を示したものである。図から分かるように実験全体の時間は40分間程度であり,データの採取を合わせて3回行っている。

5.どのような結果が得られたか
 図5は,図4のうち「1回目のデータ」として示されている部分を拡大して描いたものである。 右の縦軸には注水圧力,左の縦軸には岩盤表面で観測された変位量を示してある。図5から分かるように,実験開始直後から水圧は徐々に上昇し,「ブレイクダウン」が発生する。 ブレイクダウンとは,岩盤に新しくき裂が入ることをいう。その後,岩盤内のき裂を進展させるために60秒程度の送水を行っている。送水を停止し,孔口を完全に閉じた状皆(シャットインと呼ぶ)では,図に示すように観測される圧力が徐々に減少する。これは,孔口を完全に密閉した状悪であっても,岩盤から僅かではあるが連続して水が漏れるために観測される現象である。
 この実験ではシャットインの後に,孔口のバルブを完全に開いたため(図では孔口開放として示してある),圧力が急激にゼロまで減少している。この図を詳細に見ると,次のことが明らかとなる。

  1.  ブレイクダウンは約15MPa(150気圧)程度で発生する。このブレイクダウンまで,岩盤表面での変位は殆ど観測されない。
  2.  ブレイクダウン以降,一定の割合で注水しても注水圧は徐々に低下する。それに伴い岩盤表面の変位量が徐々に増加する。この変位量は孔口から50cm離れた箇所のLl及びRlの方が孔口から1m離れた箇所のL2及びR2よりも大きい。
  3.  Ll及びRlは,変位の大きさに関してほぼ同一の挙動を示しており,少なくとも50cm程度までは孔口を中心として左右対称に岩盤表面が変形している。しかしながら,孔口から1m離れた箇所では,R2すなわち壁面に向かって右側の方が大きく変形している。
  4.  シャットインの状態では,変位量は徐々に減少する。しかしながら,孔口の圧力を完全に開放した状態でも,変位は殆留している。このことから,圧力を完全にゼロにしてもき裂は閉じないことが分かる。
 次に,図6では図4のうち「3回目のデータ」として示してある部分を拡大した。縦軸は図5と同様であるが,表面変位のフルスケールが図2では0.02mmであるのに対し,図6では0.1mmとなっている。既に述べたように,変位を測定するためのLVDTは壁面に向かって,左側から順番にL2,Ll,Rl及びR2と配置した。図6で記録されている変位量は,この順番で大きくなっている。このことから,水圧破砕孔から進展したき裂は壁面に向かって左側に選択的に進展していることが分かる。

6.どのような解析を行うか
 上述のように実験結果を詳細に見ると,き裂は水圧破砕孔を中心として対称に進展するのではなく,壁面に向かって主として左側に伸びているようである。それでは,実際にき裂の厚み(幅)あるいはき裂の伸びた範囲はどの程度なのであろうか。この問題を有限要素法等を用いて数値的に解析しようとすれば,逆解析の手法を用いることになる。
 図7は,この問題を解析する手法の一例として有限要素法のメッシュを示してある。この例では,き裂の進展範囲が水圧破砕孔より70cm程度進展しており,き裂面に加わる水圧が一定であると仮定して,岩盤表面の変位を計算する。この計算結果が実測結果と合わなければ,再び境界条件を変えて計算を行うわけである。

7.おわりに
 「見えない地下」の様子を探る方法として,本ニュースでは,岩盤の表面変位から地下で逐次的に進展するき裂の挙動を探る方法を紹介した。ここで紹介した方法の他にも,き裂が進展する際に発生する微小な破壊音からき裂の進展範囲を堆定する方法もある。
 今回,紹介した現場実験では変位計の総数が4点であり,き裂進展の全体像を捉えるには不十分な数であった。今後,変位計の総数を増やすとともに,微小破壊音によるき裂の進展範囲の測定を同時に行い,き裂進展の様子をさらに明確にしていく予定である。

 

参考文献
 
1) Mizuta,Y.etal. 1994. Studies On Hydraulic Fracturing Stress Measurement Assisted by Water Jet Borehole Slotting,J.Min.& Met.Pro.Inst.of Japan, 110, 289-296.

地殻工学部 地殻エネルギー研究室 山口 勉



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