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1996年7月

研究室紹介

 保全技術研究室では今 ………

大気圏環境保全部 保全技術研究室 櫛山 暁

1.研究室の概要
 当研究室では,大気汚染にかかわる発生源対策技術を研究対象としています。発生源対策技術と一口に言っても汚染物質の種類はたいへん多く,また各汚染物質の排出防止対策にも様々なアプローチの仕方があり,排ガス処理技術の他に,汚染物質の発生段階あるいはその前段階などいわゆる upstream における対策技術も根本的な解決策として重要です。
 こうした様々な対策技術がある中で,当研究室では排ガス処理を主な対象とし,「分離材料による捕集・濃縮」及び「触媒反応による分解・変換」の2つの技術手法を基本として研究を行ってきました。
 また最近では,プラズマやマイクロ彼等の電気的励起源を分解反応や分離操作に利用する研究にも取り組んでいます。

 研究室の構成は,研究員9名,非常勤職員2名,卒業研修生3名となっています(平成8年4月現在)。研究員は全員が化学系で,女性研究員1名,外国研究員(タンザニア出身,昨年6月より職員採用)1名が含まれています。国外研究者の正規職員としての採用は新しい時代の流れを感じさせますが,研究室によい刺激を与え,私達の思考の巾が広がる意味でもたいへん有益なことです。
 研究の進展や新しい分野への取り組みの中で,国内外との研究協力・交流の機会も多くなっています。触媒反応・プラズマ分解の領域ではフランス触媒研究所や米国リサーチトライアングル研究所(RTI),分離技術の領域では東北大学,韓国啓明大学などと協力を行っています。また,水野前室長(現・統括研究調査官)によるフロン・ハロン等の高温プラズマ分解技術の開発は,国内数社との共同研究により完成されたものとして特筆されます。
2.研究内容
(1) 分離技術
 工場排ガス等に含まれる有機ハロゲン化合物,VOC(揮発性有機化合物)などの有害成分を対象とし,その分離・濃縮に用いる材料の性能向上と処理プロセスの簡易化,経済性向上を目指して研究を進めています。分離材料としてはシクロデキストリン等の包接化剤(ホスト化合物)及びゼオライト等の多孔性固体材料を扱っています。

 ホスト化合物は分子オーダーの空洞を持つ環状化合物で(図1),空洞のサイズや極性に適合する特定の化合物(ゲスト化合物)をその中に取り込む機能を有しています。また,ゲスト化合物の性質あるいはそれが含まれる媒体(気体,液体,固体)に応じてホスト分子内の官能基を化学修飾したりそれを固体材料化することにより,分離性能や分離プロセスを最適化することが可能です。
 このように,ホスト化合物は排ガス処理に限らず多面的な応用が期待される材料です。これまで p−キシレンや 2,6−ジメチルナフタリンなどの選択分離に成功しており,また分離膜等への材料化の検討を進めています。

 多孔性固体材料を用いる分離技術の研究では,ゼオライトの示す特異な吸着現象に着目して,吸着等温線の詳細な理論的解析を進めてきました。また,ゼオライト吸着では水分による吸着妨害が常に問題となりますが,その解決のためマイクロ波という新しい励起源を利用する新吸着プロセスの開発に取り組んでいるところです。
 
(2) 触媒反応
 固体触媒反応は当研究室で長年の歴史を持つ研究分野であり,ディーゼル自動車排ガスの触媒浄化,メタンの化学的変換に関する研究に取り組んでいます。

 ディーゼル自動車の排ガス対策(NOx,黒煙の低減)は環境対策上最も緊急を要する課題であり,国内外においてエンジン改良,燃料改質,排ガス処理を含むあらゆる角度から技術開発が進められていますが,当研究室ではNOx触媒分解について研究を行ってきました。炭化水素等の還元剤を利用する選択的接触還元法並びに還元剤を用いない直接分解法の両者について検討を進め,最近では,地球温暖化やオゾン層破壊に寄与するとされる N2O の直接分解触媒の研究も開始しました。
 これまで触媒開発,反応機構・触媒機能解明に関して多くの成果を発表し,平成6年度には石油学会奨励賞を受賞しています。現在は,多段触媒あるいは多層触媒という新たな発想をもとに触媒性能の一層の向上を目指しているところです(図2)。

 メタンの化学的変換では,国内外においてメタンから合成ガスヘの変換あるいは高級炭化水素合成など様々な研究開発が実施されています。当研究室ではこれらの反応に共通する重要な反応中間体の一つ,すなわちメチルラジカルに注目し,触媒表面上での安定性及び反応挙動の基礎的解明を進めています。さらに,新しいメタン変換技術として,活性炭系触媒を用い水素気流中1000℃以上の高温でエチレン等を合成するプロセスを開拓中です。
 
(3) プラズマ分解
 励起源としてのプラズマの利用は当研究室の新しい研究分野です。先述のフロン等プラズマ分解技術は高温プラズマ(平衡プラズマ)を用いるもので,廃棄フロンやハロンの処理を目的として開発されました。小規模の装置で大量処理が可能,ダイオキシン等有毒物質の生成が極めて少ない,消火剤であるハロン等の分解も可能など多くの優れた特徴を持つこの技術は,国内外から高い評価を受け,現在は企業による実証プラント運転へと発展しています。

 一方,数年前から低温プラズマ(非平衡プラズマ)を利用する研究を開始しました。充填床型コロナ放電(packed-bed corona discharge,図3)という手段を用い,排ガスに含まれるVOC等の希薄有害成分を分解する方法について検討中です。装置設計に関しては米国の研究機関(RTI)の協力を得ており,今後触媒分解法と組み合わせた新しいプロセスの開発を目指しています。

3.将来展望
 ディーゼル車排ガスのNOx除去は,触媒化学・触媒技術として重要な意義を持つ課題ですが,今後はさらに黒煙をも対象に加えて触媒開発を進める予定です。
これは固体(黒煙)−固体(触媒)間の反応であり,新しい発想と技術手段が必要となります。分離技術における膜材料の開発やマイクロ波の応用,希薄成分のプラズマ分解など新たに開始している研究も,我々の専門領域とは異なった技術手段を必要とするものが多く,研究所内外との研究協力が一層必要と考えられます。
 これらの研究によって得られる新しい材料や反応・分離の概念は,排ガス処理ばかりでなく各種の upstream 技術にも応用できる可能性が大きく,この点をも視野に入れて研究を進めたいと考えています。

大気圏環境保全部 保全技術研究室 櫛山 暁



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