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NIREニュ−ス

1997年12月

2次元結晶を利用した微空間の創製

−有機無機複合体を経由した多孔性材料−

素材資源部 珪素系素材研究室 小菅勝典

1.はじめに
 大きさや表面構造が良く制御された微空間を持つシリカ・ベース多孔性材料は吸着・分離剤や触媒として化学工業を支えるだけでなく、環境保全対策上有用な無機材料として注目されている。 ゼオライトはその代表的化合物であるが、細孔の大きさは水熱合成条件で決まり、1nm以上のものを合成することは難しい。
 このため、より大きな細孔を持つ多孔体として、ALPO等のリン酸塩あるいは層状化合物のインターカレーションを利用した多孔体等が開発され、合成方法並びに細孔構造と触媒能等の特性評価に関する数多くの報告がある。
 さらに、1992年 Mobil 社が開発した一群のメソポア多孔体 M41S1) は無機合成化学分野における最もホットな成果として、現在でも多くの関連研究が行われている。 このことは、新たな細孔創製技術と新規な機能を予見させる細孔を有する多孔性材料の開発が、新規産業分野の開拓あるいは環境対策上有効な技術開発に果たす役割の大きさを示している。

 ここでは、天然および合成した層状化合物の層間を利用した多孔体の異なる2つの作製法とその細孔特性について述べる。
 1つは国内に大量に賦存する蛇紋岩の酸処理により生成するMgを含むシリカ多孔体で、もう1つは層状ポリケイ酸塩のインターカレーションに基づいて作製したシリカ多孔体である。さらに、後者の研究から発展したメソポア多孔体に関する最近の研究成果についても紹介する。



2.アンチゴライトの酸処理に基づく
マイクロポア多孔体の生成と多孔性評価2)
 鉱物資源に恵まれていない我が国では、豊富に賦存する資源をそのままあるいはそれに近い形で利用するだけではなく、いろいろな処理を施すことにより種々の素材原料を作製したり、含有成分をできるだけ活用して資源の高度利用を最大限に図る必要がある。
 アンチゴライト(Mg3Si2O5(OH)4)は蛇紋岩の主要鉱石で国内にも大量に賦存することから、Mg資源として注目され、かつて数多くの化学的処理法が検討された。しかし、未だ有効な化学的処理法は確立されておらず、単に粉砕しただけで鉄鋼用スラグ形成剤等として使用されている。
 そこで、我々は蛇紋岩の有効利用を図るには、MgO分だけでなく、もう一方の主成分SiO2の活用が重要と考え、シリカ分の回収、精製並びに種々の素材合成用原料として検討してきた3),4)

 ケイ酸塩鉱物の酸処理は工業材料、例えば吸着剤、触媒あるいは触媒担体を作製するための簡便な方法として知られている。一般に、珪酸塩格子中から大部分の陽イオンが溶脱すると、元の構造は完全に破壊されて濾過性の悪いシリカゲルが生成する。しかしながら、ある種の鉱物からは元の構造を反映したシリカ質の生成物が得られる。
 アンチゴライトの酸処理生成物は元の形態を保持し、小さな多数の平板状結晶の集合体から成る塊状を呈するため濾過性に優れている。また、Mg2+の溶脱に伴いマイクロポアが生成することから、種々の濃度の硫酸溶液で溶解し、Mg2+溶解率の異なる酸処理生成物を作製した。
 細孔の形成過程と構造変化を明らかにするため、X線回折法(XRD)、走査電子顕微鏡(SEM)観察、高分解能固体核磁気共鳴法(NMR)、分子吸着法並びに細孔表面のフラクタル解析と内部比表面積のモデル計算を行った。
 図1は酸処理生成物中のMgO分と内部比表面積との関係を示している。未処理鉱石のBET比表面積は15m2/gであることから、酸処理による比表面積の増大は、Mg2+の溶脱に伴うマイクロポアの生成に起因することは明らかである。
 酸処理生成物の比表面積の最大値は約400m2/gで、細孔容積と有効径は各々0.22ml/gと1.2nmであった。また、マイクロポアの構造を破壊せず比表面積を300m2/g以上に保つには、約5%のMgOが格子中に存在することが必要である。
 酸処理に伴う細孔構造の変化過程を、図2の細孔径と細孔容積との関係に示す。矢印は溶解時間の増加を表しており、Mg2+溶解により、始め有効径 1nm のマイクロポアが生成し、その進行に伴って細孔容積が小さくなると同時に細孔径が増加する。
 また、数種類の異なる気体分子を用いて細孔表面のフラクタル解析を行うと、図1および図2のP及びQ点はフラクタル次元が3から減少する変化点に対応し、細孔表面の性質が変化し始めることを示唆している。

 上記の分子吸着法の解析結果および 29SiNMRやマイクロポアの寄与する内部比表面積のモデル計算に基づき、図3にアンチゴライトの骨格構造の変化とマイクロポアの生成および変化機構モデルを示す。
 Mg2+溶解によりシリカ4面体層の褶曲構造(a)が平坦化すると共に(b)、有効径1nmのマイクロポアがその層間に形成される(c)。さらに、細孔表面に生成したシラノール基の脱水・縮合に伴いシリケート層間が広がり細孔径が大きくなる(d)。フラクタル次元の変化は、(c)から(d)への変化に伴うもので、水酸基の脱離による細孔表面の平滑化に起因すると考えられる。
 Mg2+がほとんど溶脱すると最終的にはSiO299%以上の非晶質シリカ(比表面積170m2/g、細孔容積0.08ml/g、有効細孔径2.0nm)が得られる。

 アンチゴライトから作製したシリカ多孔体は、狭い2次元平面の細孔を有することから、市販の吸着剤にはない芳香族化合物に対する分子篩い機能を有している。また、Mg分をほとんど含まないシリカゲルも、2次元方向に伸張した局所構造に起因する反応性を示し、特に固相反応において他のシリカ原料では得られない遷移金属を含むフッ素マイカの合成が可能である5)
 国内資源である蛇紋岩の酸処理に基づく有効利用法を開発するため、今後さらにマイクロポアの分子篩能を検討し、新規材料の創製を目指したいと考えている。

3.インターカレーションを利用したシリカ多孔体の作製6)
 層状ポリケイ酸塩は層間にNa2O、H2Oを有し、2次元骨格中にはSiO2だけを含む層状化合物で、インターカレーションやイオン交換のホスト化合物として期待される。 層状ポリケイ酸塩の詳細な結晶構造は未解明であるが、層間にシラノール基をもつこと、8員環などのマイクロポアが存在すること、骨格中にアルミニウムを含まないこと、脱水・復水あるいはイオン交換に伴う層格子の移動の可逆性を示すこと、またイオン選択性等の点において他の層状ケイ酸塩と異なっている。
 また、層状ポリケイ酸塩は単位シリケートシートが積層した一群の化合物の総称であり、アイラアイト、マガディアイトあるいはケニヤアイト等数十種類が存在する。それらの単位シートの構造あるいは積層枚数が異なることから、同じゲストを同一条件でインターカレーションすることにより、細孔構造の異なる一群の多孔体の作製が可能である。 しかも、層状ポリケイ酸塩の層間イオンの交換に伴う粒子分散現象を応用することにより、膜状のシリカ架橋多孔体の作製も可能と考えられる7)

 ここでは、単位シートが2枚積層したアイラアイトをホストとして得られる耐熱性に優れた高比表面積シリカ多孔体について述べる。

 図4は実験方法並びに細孔の生成過程を示している。水熱合成したアイラアイトの層間ナトリウムイオンをプロトンで置換したH-アイラアイト(a)層間に、ゲストとしてオクチルアミンとテトラエチルオルトシリケート(TEOS)を2段階のインターカレーション(b)、(c)を常温で行い有機無機ナノ複合体を作製する。残った有機化合物を加熱除去することにより層間に細孔が形成される(d)。 有機無機ナノ複合体(c)の加熱変化をXRD回折法によって検討した結果、1000℃では細孔構造は破壊されるが、600〜900℃では底面反射(図4中のhに対応)が3.33nmに認められた。層格子の厚さを考慮するとシリカの柱の高さ(H)は2.56nmである。
 また、窒素吸着等温線から求めたt曲線は細孔径2nm以下のマイクロポアに特有の形状を示し、細孔径分布は図5の様にシャープでピーク値は加熱温度によらず約1nmである。
 一方、XRD図および吸着等温線の解析結果から、加熱処理温度の上昇に伴い、底面反射強度は低下し、細孔容量は減少する。しかし、BET比表面積は600℃で1000m2/g以上、900℃でも580m2/gであり、従来のシリカ架橋多孔体の耐熱温度が〜600℃であることを考慮すると、本多孔体は高い耐熱性を有している。

 図4から細孔がAルートで生成する場合には、細孔の長径は柱の高さ2.56nm、短径は柱の間隔である1nm(図中W)と、細長い形状をしていることが推定される。一方、シリカの架橋過程を検討するため、層間におけるTEOSと直鎖アルキルアミンの反応をビーカー内で行うと、細孔径1nmのマイクロポア多孔体が生成し、加熱に伴う比表面積の変化は上記の結果と良く一致していた。
 また、ホストにかかわらず窒素吸着等温線から求めた細孔径分布のピーク値は1nmであり、次節の実験結果も考慮すると、層間での細孔生成過程が図4のBルートである可能性もある。この場合には層間域全体を1nmの細孔径(図中D)を有するシリカ相が埋めていることになる。

 図6は、ベンゼンの吸着等温線を市販のゼオライト13Xと比較した結果である。本多孔体は800℃でも後者の600℃での吸着容量の2倍と、耐熱性の高いことが分かる。今後さらに層間という局所反応場を利用することによって、遷移金属を含むシリカ・ベースの細孔を持つ高耐熱性多孔性材料の開発を目指したいと考えている。

4.階層的規則構造を有するメソポアシリカ多孔体8,9)
 1992年モービル社によってM41Sが発見されて以来多くのメソ孔多孔体に関する研究が行われ、最近ではその合成法を基本として規則的に配列したメソ孔を持つと同時にミクロンさらにはミリメートル周期の秩序構造を有する多孔性材料が作製されるようになった。
 このような階層的規則構造を有する多孔性材料のは、直接カラム材等の分子篩い材料に応用できることから、その発展は革新的な材料開発技術となることが期待できる。

 我々は、前節の層状化合物の層間内におけるTEOSと直鎖アルキルアミンの反応をビーカー内での反応に移し替え、ミクロンオーダーの球形あるいはプレート状等の巨視的形態を呈すると同時に、規則配列した細孔を有するシリカメソ多孔体の生成条件を明らかにした。
 酸濃度と酸溶液量、またアルキル鎖のカーボン数を変化させるだけで、有機無機界面の性質をコントロールすることによって、図7に示すようなマクロ形態を有するシリカメソ多孔体が生成する。球殻の厚さをコントロールした種々の球形粒子(a)及び(b)、また極めて薄い薄膜状粒子(c)が得られ、黒く見える部分はいずれもメソ孔が規則性を持って配列している。
 細孔の規則配列は900℃でも保持され耐熱性にも優れている。これらのミクロからマクロまでの階層的規則構造を有する多孔体は、従来の方法と比較して極めて単純な反応系において作製可能である。
 さらに、本合成方法は骨格中のSiの一部をTiやAl等の金属元素で置換することが容易であり、新規分子篩いあるいは工業用及び環境浄化用触媒への応用が期待できる。

5.まとめ
 層状化合物の層構造を利用した2つの多孔体に関する研究成果を報告した。天然鉱物アンチゴライトの酸処理では、2つの主要成分のうちMgO分だけを溶解させ、残ったシリカ4面体の2次元骨格構造中の隙間が細孔として生成する。
 また、層状ポリケイ酸のインターカレーションを利用した細孔創製法においては、これまでにない耐熱性を有する高比表面積シリカ架橋多孔体が得られることを示した。
 これらの多孔体の微空間はいずれもシリカ壁で取り囲まれている。シリカ4面体のネットワークは耐熱性に優れ、細孔構造を安定化させる。

 しかし、細孔表面の活性点はシラノール基に限られ、しかも親水的であり、多くの場合応用にあたっては克服すべき課題となる。一方、インターカレーションを発展させて得られるシリカメソ多孔体はミクロからマクロに至る階層的秩序構造を持ち、上記2種類の多孔体と比較するとSiを他の金属で置換することが容易である。

 今後これらのシリカ多孔体の応用を図るため、細孔表面の修飾法やシリカ骨格中に触媒活性な元素を導入した上で、細孔特性の評価を行い、新規な触媒能および分子篩い能を持つ工業用あるいは環境浄化対策に有用な多孔性材料の開発を目指したいと考えている。
参考文献
1) Kresge, C.T.; Leonovicz, M.E.; Roth, W.J.; Vartuli, J.C.; Beck, J.S., Nature, 359, 710 (1992).; Beck, J.S.; Vartuli, J.C.; Roth, W.J.; Leonowicz, M.E.; Kresge, C.T.;   Schmitt, K.D.; Chu, C.T-W.; Olson, D.H.; Sheppard, E.W.; McCullen, S.B.; Higgins, J.B.; Schlenker, J.L., J.Am.Chem.Soc., 114, 10834 (1992).
2) Kosuge, K.; Shimada, K.; Tsunashima, A., Chem.Material, 1996, 1124 (1996).
3) 大塚良平、小菅勝典、輿水仁、サイエンス、日経サイエンス社, 18, 40 (1988).
4) 小菅勝典、嶋田浩治、綱島群、資源環境技術総合研究所報告、第18号  (1997).
5) 小菅勝典、嶋田浩治、綱島群、大塚良平、日本化学会誌、1995,363 (1995).
6) Kosuge, K.; Tsunashima, A., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1995,2427 (1995).
7) Kosuge, K.; Tsunashima, A., Langmuir, 12, 1124 (1996).
8) Puyam S.Singh, Kosuge,K., Chem.Lett.,(1997),印刷中.

素材資源部 珪素系素材研究室 小菅勝典



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